炭をやめたら、煙が荒くなった。

炭をやめたら、煙が荒くなった。

文:オリバ(deeep 研究係)


同じ人が、同じ葉を、炭と電気で吸う。
体に入ったニコチンの量は、はっきりした差がなかった。

なのに電気のほうは、「煙が荒い」「喉にくる」「楽しくない」と言われた。

炭を使わない電気加熱式のシーシャは、日本でも2025年ごろから売られ始めています。
火起こしがいらない。片付けも楽。
それでも「やっぱり炭がおいしい」と言う人は、まだ多い。

葉は同じ。ニコチンも同じ。
違うのは、熱だけ。
では、その熱の何が違うのか。ずっと気になっていました。

シーシャのボウルの横に、炭の入った小さな器と電気ヘッドが並ぶ静かなテーブル

同じ人、同じ葉、7日あけて

2026年、サンディエゴ州立大学のKassemらが、シーシャを吸う50人に協力してもらった実験です。
研究費はアメリカの食品医薬品局(FDA)と国立衛生研究所(NIH)など。業界のお金は入っていません。

ひとりが炭と電気を1回ずつ、7日あけて、それぞれ自宅で吸う。
葉はどちらもダブルアップル10g。
電気はセラミック製のヘッドで、0〜9の目盛りを3から始めて、3〜5の範囲で各自が調整しました。

結果を、味の側だけ拾うとこうなります。

  • 電気のほうが、満足感も楽しさも低かった
  • 電気のほうが、煙が荒く、喉が痛いと感じた
  • 電気のほうが、煙が薄く、煙で遊ぶ技がやりにくかった
  • 吸い終わったあとのニコチン代謝物の増え方は、統計的な差なし

吸っていた時間は、炭が平均約33分、電気が約28分。
電気のほうが、少し早く切り上げられていました。

ニコチンが同じなら、「荒さ」はニコチンの強さのせいではなさそうです。

熱くなる面積が、7倍

同じ研究グループのBrinkmanら(2020年)が、同じ型の電気ヘッドを機械で吸わせて測っています。

まず、ヒーターの位置。
炭は葉の上に乗りますが、この電気ヘッドは、セラミックのボウルの底に発熱体が埋め込まれている。
葉はその中に詰めて、上をホイルでふさぐ。熱は下から来ます。

次に、熱くなる面の広さ。
電気ヘッドは45.6cm²。炭と同じように上に置くタイプのヒーター(以前の研究で測ったもの)は6.2cm²。
約7倍です。

面白いのは、ヒーターの最高温度そのものは、その上置きヒーターと同じだったこと。
著者たちは、差を生んだのは温度ではなく、熱くなる面の広さだろうと書いています。
そして葉の最高温度は、炭で約150℃、電気で約300℃。
1回で消えた葉の割合は、炭が約27〜28%、電気が70.6%。約2.4倍の葉が使われていました。

電気ヘッドは葉の下から広い面で触れ、上に置くヒーターの約7倍の面積で熱を渡す。
電気ヘッドは葉の下から広い面で触れ、上に置くヒーターの約7倍の面積で熱を渡す。
炭に比べて電気では、葉の最高温度が約2倍、使われた葉が約2.4倍になった。
炭に比べて電気では、葉の最高温度が約2倍、使われた葉が約2.4倍になった。

熱の「量」が多い、というより、熱の「入り口」が広い。
ここが一つ目の鍵です。

炭は、吸ったときだけ本気を出す

もう一つの鍵は、熱が届く「タイミング」。

ベイルート・アメリカン大学のMonzerら(2008年)は、炭の熱の運ばれ方をこう整理しています。
吸っていない間は、触れたところから伝わる伝導。
吸っている間は、それに加えて、炭の熱い空気が流れ込む対流。
炭から届く熱線(輻射)は、ほぼ無視できる量でした。

つまり炭は、あなたが吸った瞬間にだけ、熱をまとめて送り込む。
吸わなければ、熱は細く、ゆっくりしか届きません。

同じ論文には、炭の代わりの電気ヒーターを作ったときの話も出てきます(くわしくは「シーシャは、吸わないと75℃。」で書きました)。
最初の試作は、吸っていない間にも葉を温めすぎて、香りがボウルの上から逃げていった。
直し方は、ヒーターと葉の接触を減らし、空気の通り道を作ること。
そうしてやっと、一口ごとに熱風がひと塊で届く、炭に近い煙になったそうです。

炭の熱は吸った瞬間に波のように届き、広い面で触れる電気は吸っていない間も同じ熱をかけ続ける。
炭の熱は吸った瞬間に波のように届き、広い面で触れる電気は吸っていない間も同じ熱をかけ続ける。

「荒さ」の正体を、考えてみる

ここからは、研究の結論ではなく、オリバの読みとして聞いてください。

炭のボウルは、吸う、休む、吸う、のリズムで温度が上下します。
休んでいる間、葉はゆっくり温まるだけ。
次の一口で、熱風が香りとグリセリンを一気に運び出す。

広い面で下から触れ続けるヒーターは、休んでいる間も葉を温め続けます。
吸う前に、水分やグリセリンや香りが先に飛んでしまう。
一口を吸うころ、ヒーターの近くに残っているのは、乾いて熱い葉。

それなら、煙が薄く感じるのも、喉に引っかかるのも、つじつまが合います。
葉が2.4倍のペースで減っていくのも同じ理由かもしれません。

ただし、この研究で使われたのは電気ヘッドのひとつの型だけ。
発熱体の位置や空気の通し方は、製品によって違います。
「電気だから荒い」ではなく、「熱のかけ方しだいで荒くなる」と読むのが、たぶん正確です。

家で試せる、3つのこと

1. 電気なら、目盛りは低いところから。
Kassemらの実験も、目盛りは9段階の3から始めて、3〜5の範囲に収まっていました。
物足りなければ、1つずつ上げる。いきなり上げると、葉が先に乾きます。

2. 吸っていない間に煙が立ったら、下げる。
ボウルの上から白いものが上がるのは、葉が煮えているサイン。
香りが、ホースではなく部屋に流れています。

3. 同じ葉で、吸い比べてみる。
同じフレーバーを、炭と電気で1回ずつ。
煙の濃さ、喉ざわり、甘さの残り方をメモしておく。
どちらが合うかは、自分の舌で決めていい。比べる軸を持つだけで、調整がずっと楽になります。

電気ヘッドの目盛りのつまみと、その横で静かに置かれた葉の小皿

炭は、熱を出す道具だと思っていました。
でも実際は、あなたが吸うまで熱を「待っている」道具でした。

おいしさは、熱の量より、熱のかけ方で決まる。
炭をやめて荒くなったのは、たぶん、その「待つ」がなくなったからです。

参考

  • Kassem, N. O. F., Liles, S., Kassem, N. O., Zaki, F. K. (2026) *Comparison of effects of charcoal versus electric heating of waterpipe tobacco on carbon monoxide levels; cardiovascular measures; benzene, pyrene, and nicotine uptake; and subjective reactions*, Toxicology Reports 17 — PMC13318556 / doi:10.1016/j.toxrep.2026.102303
  • Brinkman, M. C. et al. (2020) *Effect of electric heating and ice added to the bowl on mainstream waterpipe semivolatile furan and other toxicant yields*, Tobacco Control 29(Suppl 2):s110–s116 — PMC7050391
  • Monzer, B., Sepetdjian, E., Saliba, N., Shihadeh, A. (2008) *Charcoal emissions as a source of CO and carcinogenic PAH in mainstream narghile waterpipe smoke*, Food and Chemical Toxicology 46:2991–2995 — 著者PDF
Back to blog

Leave a comment

Please note, comments need to be approved before they are published.