シーシャって、どんな味がするの?

シーシャって、どんな味がするの?

文:オリバ(deeep 研究係)


「シーシャって、どんな味がするの?」

吸わない友だちに、これを聞かれるといつも困る。

「ピーチ味だよ」と答えると、
「桃の味がするの?」と返ってくる。

するような、しないような。
桃をかじったときの、あの甘酸っぱい汁はない。
なのに、確かに桃なのだ。

ずっと、うまく説明できなかった。
今日は、ちゃんと答えてみる。

先に結論を言うと、
シーシャの味は、ほとんどが鼻の奥で起きている。

白いテーブルの上に、シーシャのボウルと、半分に切った桃がひとつ並んでいる

舌に届くものは、意外と少ない

舌が感じ取れるのは、甘い・しょっぱい・酸っぱい・苦い・うま味の5つ。
シーシャの煙が舌まで運んでくるものは、このうちのごく一部だ。

砂糖は、熱しても煙にならない。ボウルの中で焦げて、香りに変わる(前に書いた、冷やしたシーシャの話)。
果物の酸っぱさも、煙にはほとんど乗らない(ハイビスカスの話)。
塩は、もちろん乗らない。

舌に残るのは、煙のもとになるグリセリンの、ほのかな甘さくらい。

もうひとつ、温度。
煙はホースに入るころには、ほぼ室温まで冷えている(Shihadeh 2003)。
熱いスープでも、冷えたジュースでもない。

舌の上は、かなり静かだ。
それでも「桃だ」と分かるのは、別の場所で味わっているからだ。

鼻には、入口が2つある

匂いの入り方は、2通りある。

ひとつは、鼻の穴から吸い込む匂い。花を嗅ぐときの、あの道。
専門用語では「オルソネーザル」、前からの嗅覚。

もうひとつは、口の中の空気が、喉の奥を回って鼻へ抜けていく匂い。
こちらは「レトロネーザル」、後ろからの嗅覚。

不思議なのは、後ろの道から来た匂いを、私たちは「匂い」だと感じないこと。
口の中の「味」として受け取ってしまう。

1982年、米国の心理学者ポール・ロジンは、これを「嗅覚の二重性」と呼んだ。
鼻から嗅いで覚えた匂いを、口の奥から届けると、うまく言い当てられなくなる。そんな実験がよく紹介される。
2005年には、Smallらが、同じ匂いでも前から来るか後ろから来るかで、脳の反応のしかたが違うことを報告している。

嗅ぐ匂いは鼻の前から、シーシャの香りは口から喉の奥を回って鼻へ届き、「味」として感じられる。
嗅ぐ匂いは鼻の前から、シーシャの香りは口から喉の奥を回って鼻へ届き、「味」として感じられる。

シーシャは、口に煙をふくんで、吐く。
そのたびに、香りが喉の奥から鼻へ抜けていく。
後ろの道を、何度も、ゆっくり通る。
だから、ちゃんと「味」になる。

「味の8割は匂い」の、本当の出どころ

ここで、よく聞く数字がある。
「味の8割は匂いで決まる」。

気になって出どころを探したら、少し意外なところにたどり着いた。

英オックスフォード大学のチャールズ・スペンスが、2015年にこの数字の来歴を追いかけている。
行き着いた先は、1977年のMurphyらの実験だった。

訓練を受けた6人に、液体を味わってもらう。
ひとつは、甘い味のサッカリンの液。
もうひとつは、パイナップルのような甘い匂いの酪酸エチルの液。

すると6人は、匂いしか入っていないはずの液にも「味がある」と答えた。
そして鼻をふさぐと、その“味”は最大で8割消えた。

匂いだけの液に感じた「味」は、鼻をふさぐと最大で8割消えた。
匂いだけの液に感じた「味」は、鼻をふさぐと最大で8割消えた。

つまり、8割という数字は「味のうち8割が匂い」という測定ではなかった。
甘い匂いを、舌の味だと思い込んだ分の大きさだった。

スペンスの結論は、はっきりしている。
味のうち何%が匂いか、という問いに正確な数字を付けるのは、ほとんど意味がない。
食べ物によっても、「味」という言葉をどう決めるかによっても変わるからだ。
ただし、匂いが味わいの主役級だという点には、多くの人が同意している、とも書いている。

ここで、私はひとつ笑ってしまった。
その酪酸エチル、シーシャでおなじみの香料なのだ。
オランダで売られていたシーシャの葉249製品のうち、4割に入っていた(前に書いた、香りの家族の話)。

パイナップルの匂いが、口の中で「甘い味」に化ける。
シーシャの甘さの一部は、たぶん、この思い込みでできている。

だから、答えはこうなる

「シーシャって、どんな味?」

いまの私の答えは、こうだ。

**口の中で、果物やお菓子の“匂い”を味わう感じ。
甘さはほんのり。汁気も、熱さもない。**

食べないデザート、と言ってもいい。

フレーバーの名前はたくさんあるけれど、香りは大きく、果物、バニラやキャラメルのようなお菓子、ミントのあたりに分かれる。
初めてなら、名前を見て、知っている果物を選ぶのがいちばん想像しやすい。
ただし、ダブルアップルだけは、リンゴより八角に近い。これは前に書いたとおり。

吸った一口のうち、舌に届くのはほのかな甘さだけ。果物もお菓子もミントも、鼻の奥で「味」になる。
吸った一口のうち、舌に届くのはほのかな甘さだけ。果物もお菓子もミントも、鼻の奥で「味」になる。

家で試せる、3つのこと

シーシャがなくても、台所でできる。

1. 鼻をつまんで、フルーツ味のグミをかむ。
何味なのか、ほとんど分からないはず。
かみながら、指を離す。
その瞬間に「ぶどうだ」と来たら、それが後ろの道だ。

2. 砂糖なしのフルーツティーを飲む。
ピーチやベリーの香りのお茶を、砂糖を入れずに。
香りは甘いのに、舌はまったく甘くない。
あの「甘い気がする」が、鼻の仕事。

3. 飲み込んだあと、口を閉じて鼻から息を吐く。
コーヒーでも、チョコレートでもいい。
吐く息にのって、味がもう一度戻ってくる。
シーシャの「吐く」は、毎回これをやっている。

窓辺の木のテーブルに、色とりどりのグミと、湯気の立つ透明なティーカップ

「どんな味?」と聞かれたら、
今度は、こう答えようと思う。

舌じゃなくて、鼻の奥で食べるお菓子。

参考

  • Spence, C. (2015) *Just how much of what we taste derives from the sense of smell?*, Flavour 4:30 — doi:10.1186/s13411-015-0040-2
  • Murphy, C., Cain, W. S. & Bartoshuk, L. M. (1977) *Mutual action of taste and olfaction*, Sensory Processes 1:204–211(上記Spence 2015で内容を確認)
  • Rozin, P. (1982) *"Taste-smell confusions" and the duality of the olfactory sense*, Perception & Psychophysics 31:397–401 — doi:10.3758/BF03202667
  • Small, D. M. et al. (2005) *Differential Neural Responses Evoked by Orthonasal versus Retronasal Odorant Perception in Humans*, Neuron 47:593–605 — doi:10.1016/j.neuron.2005.07.022
  • Shihadeh, A. (2003) *Investigation of mainstream smoke aerosol of the argileh water pipe*, Food and Chemical Toxicology 41:143–152 — doi:10.1016/S0278-6915(02)00220-X
  • Bakker-'t Hart, I. M. E. et al. (2022) *Flavours and flavourings in waterpipe products: a comparison between tobacco, herbal molasses and steam stones*, Tobacco Control — PMC10447401
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