グアバとピノ・ノワールは、同じ匂いを持っている。

グアバとピノ・ノワールは、同じ匂いを持っている。

文:オリバ(deeep 研究係)


グアバのシーシャと、ブルゴーニュの赤。

産地も値段も、たぶん客層も違う。
なのに、同じ分子が鳴っている。

名前は、桂皮酸エチル(エチルシンナメート)。
シナモンの親戚で、フルーティーで、少し蜂蜜っぽい。

半分に切ったグアバと、赤ワインの入ったグラスを並べて真横から

13缶を、分子に分解した人たち

2018年、カイロ大学のチームが市販のフレーバー付きシーシャ13製品を分析した。
葉を50℃ほどに温めて、立ちのぼる香りを捕まえ、成分をひとつずつ特定する。

見つかった香り成分は、114種。
いちばん多いグループはエステルで、香り全体の最大約40%を占めていた。
エステルは、果物の「果物らしさ」を担う分子の一族だ。

その中で、グアバ味の香りの約19%が桂皮酸エチルだった。

面白いのはここから。
論文自身が「桂皮酸エチルはピノ・ノワールの主要な香り成分として知られる」と書いている。
実際、ブルゴーニュのピノ・ノワールを嗅ぎ分けた1995年の研究では、桂皮酸エチルは「2番目に強く香る成分」に挙がっている。

ちなみに、本物のグアバの香りの主役は、桂皮酸エチルそのものではなく、シンナミル系の近縁分子とされる。
つまりフレーバーの設計者は、グアバの骨格に近い分子を選んで、グアバを描いている。
その絵の具が、たまたまブルゴーニュの棚にも置いてあった。

グリーングレープは、みかんの親戚

同じ論文で、グリーングレープ味の香りの約27%を占めていたのは、N-メチルアントラニル酸メチル。
ほぼこのフレーバーにしか出てこない、ほとんど専用の分子だった。

これは、アントラニル酸メチルの弟分。
兄のほうは、コンコード種(アメリカ系のブドウ)のあの「ブドウジュースっぽさ」の正体とされる分子だ。
グレープ味の駄菓子を思い出してほしい。本物のブドウより「ブドウっぽい」、あの匂い。

一方、弟のN-メチル体は、みかんの皮や葉の精油に含まれることで知られる。
ブドウとみかんが、分子一個ぶんの距離にいる。

しかもグリーングレープ味には、桂皮酸エチルも約11%入っていた。
グリーングレープは、グアバとも、ピノとも、みかんとも、手をつないでいる。

グアバ味の約19%、グリーングレープ味の約11%を、同じ桂皮酸エチルが占めている。
グアバ味の約19%、グリーングレープ味の約11%を、同じ桂皮酸エチルが占めている。

ついでに、ストロベリー味からはフラネオールが見つかっている。
甘く、カラメルっぽい香りの分子で、アメリカ系ブドウの交配種に含まれることも報告されている。

3つのフレーバーは、共通する香り分子を介してピノ・ノワールやみかん、松茸とつながっている。
3つのフレーバーは、共通する香り分子を介してピノ・ノワールやみかん、松茸とつながっている。

分子で組む、ペアリング仮説

ここからは、オリバの仮説。論文に書いてあることではない。
共通の分子を持つもの同士は、口の中で「同じ音」を鳴らすはず、という発想だ。

1. グアバ × ピノ・ノワール
今回の主役。桂皮酸エチルで直結する。
重たいタンニンの赤より、軽やかなピノのほうが、グアバの甘さを邪魔しないと思う。

2. グリーングレープ × 温州みかん(または、みかんの皮を少し)
アントラニル酸系で兄弟。
こたつの季節に、ボウルの横にみかんを一つ。皮を剥いた瞬間の香りで、ミックスが一段明るくなるか試してほしい。

3. グアバ × 松茸
これは攻めた案。松茸の香りの鍵のひとつは、桂皮酸メチル。桂皮酸エチルの、ほぼ双子だ。
土瓶蒸しのあとにグアバ。秋の夜に、試す価値はある。

4. ストロベリー × 巨峰
巨峰はアメリカ系ブドウの血を引く交配品種。フラネオール系の甘い香りでつながるかもしれない。

共通する分子から組んだ、4つのペアリング仮説。
共通する分子から組んだ、4つのペアリング仮説。
シーシャのボウルの横に、皮を少し剥いた温州みかんを一つ

ただし、焦がすと全部消える

同じ研究は、葉を190℃まで加熱した実験もしている。
すると、それまで無かった香り成分が81種新たに現れた。
主役は果物のエステルではなく、フェノール類など、熱で壊れてできたもの。

190℃まで熱すると、それまで無かった香り成分が81種あらわれる。
190℃まで熱すると、それまで無かった香り成分が81種あらわれる。

つまり、ペアリングの前提は「フレーバーを果物のまま届けること」。
炭を載せすぎた時点で、グアバはもうピノとつながっていない。
分子で組むなら、火加減も分子のために。


ワインリストの横に、フレーバーリストを置く日が来るかもしれない。
共通言語は、もうある。分子だ。

参考

  • Farag MA et al. (2018) The characterization of flavored hookahs aroma profile and in response to heating as analyzed via headspace SPME and chemometrics. Scientific Reports 8 — doi:10.1038/s41598-018-35368-6
  • Moio L, Etievant PX (1995) Ethyl anthranilate, ethyl cinnamate, 2,3-dihydrocinnamate, and methyl anthranilate: four important odorants identified in Pinot noir wines of Burgundy. Am J Enol Vitic 46:392 — ajevonline.org
  • Wang J, De Luca V (2005) The biosynthesis and regulation of biosynthesis of Concord grape fruit esters, including 'foxy' methylanthranilate. Plant J — PubMed 16262710
  • Methyl-N-methylanthranilate, a pungent compound from Citrus reticulata (2015) Pharm Biol — PubMed 26471095
  • Steinhaus M et al. (2008) Characterization of the aroma-active compounds in pink guava. J Agric Food Chem — PubMed 18476695
  • 松茸の香気成分(桂皮酸メチル・1-オクテン-3-オール)— Foods 2024, doi:10.3390/foods13132123
  • 巨峰(vinifera × labrusca)の香り — BIO Web of Conferences 2017
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