冷やしたシーシャは、なぜ甘いのか。

冷やしたシーシャは、なぜ甘いのか。

文:オリバ(deeep 研究係)


葉を詰めたボウルを、冷蔵庫に入れてから吸う。
そんな人がいる。

炭で温めるものを、わざわざ冷やす。
最初に聞いたときは、ちょっと笑ってしまった。
でも、やった人の感想はだいたい同じ。
「甘くなる」。

気になったのは、そこじゃない。
その前の、もっと根っこの疑問だ。

そもそも、シーシャの甘さはどこから来ているのか。

冷蔵庫の棚に、葉を詰めた陶器のボウルがひとつだけ置かれている

砂糖は、煙にならない

シーシャの葉には、糖蜜やハチミツがたっぷり入っている。
だから甘い。そう思いたくなる。

でも、砂糖(ショ糖)は気体にならない。
加熱すると186℃前後で溶けながら、そのまま分解していく。
水やアルコールのように「蒸発して、煙に乗って、舌に届く」ことは、ほぼない。

ボウルの中の砂糖は、ボウルの中で終わる。
じゃあ、口の中のあの甘さは誰なのか。

調べていくと、出どころは2つあった。

ひとつめは、グリセリン。
シーシャの煙のもとになる保湿剤だ。
グリセリンは、それ自体が甘い。砂糖の6割ほどの甘さとされる。
しかもこちらは気体になれるので、煙に乗って舌まで届く。
フレーバーを替えても、どれも同じ質の甘さが底に残る。
その底の甘さは、たぶんグリセリンだ。

ふたつめは、香り。
こちらは舌ではなく、鼻で感じる甘さ。
口に入った香りは、喉の奥から鼻へ抜ける。
脳はその香りを、舌の味と混ぜて「味」として受け取る。

1999年、オーストラリアのStevensonらは、砂糖水にいろいろな匂いを足して味を評価させた。
いちばん「甘い匂い」と評価されたのはカラメル。
カラメルの匂いを足すと、砂糖水はより甘く、クエン酸の水は酸っぱさが弱く感じられた。
砂糖の量は、何も変えていないのに。

シーシャの甘さは2本の道で届く。グリセリンは舌へ、香りは鼻の奥へ。砂糖はボウルに残る。
シーシャの甘さは2本の道で届く。グリセリンは舌へ、香りは鼻の奥へ。砂糖はボウルに残る。

甘い香りは、糖が壊れてできる

ここで、話がつながる。

砂糖は煙にならない。
でも、熱で壊れると、香りの分子に生まれ変わる。
これがカラメル化だ。

カラメル化が始まる温度は、糖の種類で違う。
食品化学の一般的な目安では、果糖が110℃前後、ショ糖やブドウ糖は160℃前後とされる。
ハチミツや果汁に多い果糖は、いちばん早く香ばしくなる。

シーシャでは、この反応がかなり大きな規模で起きている。
ドイツ連邦リスク評価研究所のSchubertらは2012年、糖が熱で壊れたときにできるHMFという分子を、シーシャの煙から測った。
1セッションで最大62.3mg。紙巻きたばこで報告されている値の、最大3,900倍だった。
しかもHMFは、ボトルの水をほぼ素通りしていた。

シーシャは、ボウルの中で砂糖を焼き続けている。
甘い香りは、その副産物だ。

ただし、カラメルには上限がある。
焼きすぎれば、香ばしさは苦みと焦げに変わる。
フライパンの砂糖と同じだ。

温度のものさし。吸わなければ葉は約75℃。果糖は110℃前後、ショ糖は160℃前後でカラメル化が始まる。
温度のものさし。吸わなければ葉は約75℃。果糖は110℃前後、ショ糖は160℃前後でカラメル化が始まる。

葉には、最初からブレーキがついている

では、ボウルの温度はどれくらいか。

吸わずに置いておくと、葉は約75℃で落ち着く(Shihadeh 2003)。
吸っている最中のヘッドの中は、265〜318℃まで上がったという測定もある(Perraud 2019)。
つまりボウルの中には、カラメルが「まだ」の場所と、「焼けすぎ」の場所が同時にある。

ここで効いてくるのが、保湿剤だ。
Schubertらの別の研究(2012年)では、葉に含まれるグリセリンなどの保湿剤が多いほど、吸っている間のヘッドの温度が低くなった。
水やグリセリンが蒸発するとき、熱を持っていく。
汗で体が冷えるのと同じしくみだ。

つまり、しっとりした葉には、もともとブレーキがついている。

冷やすと、何が起きているのか

ここからは、オリバの推理。
冷やしたボウルを直接測った研究は、見つからなかった。

冷えたボウルと葉は、まず自分が温まるのに熱を使う。
だから温度の上がり方がゆっくりになる。
保湿剤のブレーキに、もうひとつブレーキを足すようなものだ。

ゆっくり上がるということは、
カラメルの香りが立ち始めて、まだ焦げていない温度帯を、長めに通るということ。
甘いと感じる時間が延びる。
「冷やすと甘い」は、たぶんこれで説明がつく。

裏を返すと、冷やすこと自体に魔法はない。
大事なのは温度の上がり方。冷蔵庫は、そのための道具のひとつにすぎない。

保湿剤の蒸発と、冷えたボウルの温め直しが熱を使う分、葉の温度はゆっくり上がる。
保湿剤の蒸発と、冷えたボウルの温め直しが熱を使う分、葉の温度はゆっくり上がる。

家で試せる、3つのこと

1. 鼻をつまんで、ひと口。
軽く吸って、鼻をつまんだまま口の中で味わう。
残っている甘さは、舌が感じているグリセリン。
鼻を離した瞬間にふわっと来る甘さが、香りの甘さだ。
自分のシーシャの甘さが、どちら寄りなのかが分かる。

2. 甘さが苦みに変わったら、温度のサイン。
カラメルが焦げ始めている合図だ。
炭を縁へずらすか、1つ外す。
甘さが戻ってきたら、それがそのフレーバーのちょうどいい温度。

3. 冷やすなら、最初の数分は待つ。
冷えたボウルは温まるまでに時間がかかる。
煙が薄くても、すぐに炭を足さない。
ゆっくり上がる時間こそが、冷やした意味だから。

炭の乗ったボウルから、細く白い煙が静かに立ちのぼっている

砂糖は、煙にならない。
それでもシーシャが甘いのは、
舌と鼻が、焼けていく砂糖の気配を受け取っているから。

冷蔵庫が甘さを作るわけじゃない。
甘い時間を、少し長くしているだけだ。

参考

  • Schubert, J. et al. (2012) *Waterpipe smoke: A considerable source of human exposure against furanic compounds*, Analytica Chimica Acta 709:105–112 — doi:10.1016/j.aca.2011.10.012
  • Schubert, J. et al. (2012) *Waterpipe smoking: the role of humectants in the release of toxic carbonyls*, Archives of Toxicology 86:1309–1316 — doi:10.1007/s00204-012-0884-5
  • Stevenson, R. J., Prescott, J. & Boakes, R. A. (1999) *Confusing tastes and smells: how odours can influence the perception of sweet and sour tastes*, Chemical Senses 24:627–635 — doi:10.1093/chemse/24.6.627
  • Kroh, L. W. (1994) *Caramelisation in food and beverages*, Food Chemistry 51:373–379 — doi:10.1016/0308-8146(94)90188-0
  • Shihadeh, A. (2003) *Investigation of mainstream smoke aerosol of the argileh water pipe*, Food and Chemical Toxicology 41:143–152 — doi:10.1016/S0278-6915(02)00220-X
  • Perraud, V. et al. (2019) *Chemical characterization of nanoparticles and volatiles present in mainstream hookah smoke*, Aerosol Science and Technology — PMC7546025
  • PubChem: Sucrose(融点 185.5℃、分解)— CID 5988 / Glycerol(甘味)— CID 753
  • American Society of Baking: Glycerin(砂糖の約60%の甘さ)— asbe.org
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