シーシャの煙は、煙じゃない。
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文:オリバ(deeep 研究係)
焚き火の煙は、燃えた木のかけらだ。
では、シーシャの白い煙は何が燃えたものか。
答えは、ほぼ何も燃えていない。
あの白さは、液体だ。
ボウルで一度気体になり、冷えて、もう一度液体の粒に戻ったもの。
やっていることは、煙というより、雲に近い。
その雲の材料は、たばこの葉ですらない。
葉の7割は、葉じゃない
シーシャ用の甘い葉(モアッセル)を、中身ごとに量るとこうなる。
たばこの葉は約3割。
残りの約7割は、グリセリン、糖、香料。
2023年にBMC Public Healthに載ったAlmomenらの論文が、そうまとめている。
同じ論文では、市販品のグリセリンは20〜35%の範囲だった。
缶を開けたときの、あのしっとりした重さ。
あれは葉の重さではなく、ほとんどシロップの重さだ。
グリセリンは、無色でとろっとした、甘い液体。
化粧水にもお菓子にも入っている、ありふれた物質だ。
シーシャでは、これが煙の主役になる。
純グリセリン4gで、0.2gしか減らない
2019年、UCアーバインのPerraudらは、シーシャの煙をリアルタイムで分析した。
気体の側でいちばん目立っていたのは、圧倒的にグリセリンと、それが熱で変化したものだった。
ニコチンでも、葉の燃えカスでもない。
ここで研究者たちは、面白い対照実験をしている。
葉の代わりに、純グリセリンを約4g、ボウルに入れて30分吸わせた。
減ったのは、約0.2g。
ふつうの葉10gでは、同じ30分で約2.2g減っていた。
割合にすると、葉は約22%、純グリセリンは約5%。
主役のはずのグリセリンが、ひとりだと、ほとんど飛ばない。
理由のひとつは、温度だと思う。
このときのボウルの温度は265〜318℃。
グリセリンの沸点は約290℃。ちょうど、その真ん中にいる。
ぐらぐら沸く温度ではない。表面から少しずつ蒸発していく温度だ。
もうひとつは、オリバの仮説。
蒸発は、表面からしか起きない。
カップに入った水より、濡れたタオルのほうが早く乾く。
葉の繊維は、グリセリンを薄く広げる「タオル」の役をしているのではないか。
論文はここまで書いていないので、あくまで仮説として。
白さの正体は、冷えて戻った霧
ボウルを出た気体のグリセリンは、ステムを下り、水をくぐるあいだに急に冷える。
冷えた気体は、もう気体のままではいられない。
集まって、小さな液体の粒になる。これを凝縮という。
Perraudらは、煙の中で新しい粒が次々に生まれていることを確かめている。
しかも、ボトルの水で冷やされることが、粒の誕生をむしろ後押ししているようだ、と書いている。
粒が細かく、数が多いほど、光をよく散らす。
だから、白く見える。
空の雲が白いのと、同じ理屈だ。
ちなみに、粒の中身を調べると、主要な成分のひとつはグリセリンと糖がくっついた分子だった。
葉の7割を占めていた2つが、煙の中で手を組んでいる。
香りは、その霧に乗ってくる
フルーツやミントの香りの分子も、ボウルでグリセリンと一緒に気体になる。
そして冷えるとき、霧の粒に溶け込んだり、粒のまわりを漂ったりしながら、ホースを通ってくる。
香りだけでは、ここまで運ばれにくい。
霧という乗り物があって、はじめて口まで届く。
その乗り物も、ずっと同じではない。
同じ研究で、粒の大きさは最初の約10分が約80nm、その後は約200nmに太っていた。
(この話は「レモンは序盤で死ぬ。」の回で詳しく書いた。)
家で試せる、3つのこと
1. 缶の底のシロップを、捨てない。
葉をほぐすときに、底にたまった液を葉に絡め直す。
白い霧の材料は、葉ではなく、その液のほうだ。
2. 液を足すなら、絡める。ためない。
純グリセリンは、ひとりではほとんど飛ばなかった。
ボウルの底に液だまりを作るより、葉に薄くなじませるほうが、理屈の上では霧になりやすい。
3. 吐いた煙の「消え方」を見る。
雲と同じで、霧の粒はまわりの空気が乾いていると、また蒸発して消えていく。
冬の吐く息が白いのと同じで、部屋の温度や湿度で残り方が変わるはずだ。
いつもの部屋と、少し条件の違う場所で、白さが消えるまでの時間を見比べてみてほしい。


シーシャの煙は、煙じゃない。
手のひらのボウルで生まれて、ホースの中で育つ、小さな雲だ。
吐き出すたびに、雲がひとつ部屋に浮かぶ。
そう思うと、少しだけゆっくり吐きたくなる。
参考
- Almomen, S. et al. (2023) *Effect of glycerol concentration on levels of toxicants emissions from water-pipe tobacco smoking (WTS)*, BMC Public Health — PMC10518960
- Perraud, V. et al. (2019) *Chemical characterization of nanoparticles and volatiles present in mainstream hookah smoke*, Aerosol Science and Technology — PMC7546025 / doi:10.1080/02786826.2019.1628342
- PubChem, Glycerol(沸点)— pubchem.ncbi.nlm.nih.gov