ミックスは、4種類から先は分からない。

ミックスは、4種類から先は分からない。

文:オリバ(deeep 研究係)


5種類を混ぜたミックスを吸って、
「全部わかる」と言える人は、たぶんいない。

調香師でも、無理だった。

先日、シーシャ店がミックスの中身を当てるイベントを開く、という告知を見かけた。
おもしろそうだと思った。
同時に、意地悪な疑問が浮かんだ。

人の鼻は、そもそも何種類まで聞き分けられるのか。

調べたら、答えは思ったよりずっと小さかった。

5つの小さなボウルに、それぞれ違うフレーバーの葉が詰められて一列に並んでいる

123人に、混ぜた匂いを嗅がせた

1989年、オーストラリアの研究機関CSIROのLaingとFrancisが、こんな実験をした。

123人に、1〜5種類の匂いを混ぜたものを嗅がせる。
そして、何が入っているかを答えてもらう。

使ったのは、誰でも知っている、似ていない匂いばかり。
それでも結果ははっきりしていた。

いちばん当たったのは、1種類だけのとき。
混ぜたとたん、中身を正しく言い当てられる人は、ほとんどいなくなった。

後の論文で、同じ研究グループはこの結果を一言でまとめている。
人が混ざった匂いを分けられるのは、3〜4種類が上限。

2001年の追試では、もっと厳しい数字が出た。
14人が、1〜4種類の混合を嗅ぐ。
2種類を超えたあたりから急に難しくなり、4種類の混合では、どの匂いも当てずっぽうと同じ正答率にまで落ちた。

混ぜる数を増やすほど、鼻が言い当てられる数は頭打ちになる。上限は3〜4種類。
混ぜる数を増やすほど、鼻が言い当てられる数は頭打ちになる。上限は3〜4種類。

プロの鼻でも、天井は同じ

素人だからでしょう、と思った。
私も思った。

1996年、LivermoreとLaingは、その疑いを確かめにいった。

集めたのは2つのチーム。
訓練を受けた10人のパネルと、プロの調香師・フレーバリスト8人。

匂いは7種類。強さをそろえ、機械で正確に混ぜて、最大5種類まで重ねた。

結果は、どちらのチームも同じ。
混合の中から見分けて名前を言えたのは、3〜4種類まで。
しかも、訓練してもこの数は増えなかった。

著者たちは、この限界は経験の問題ではなく、体のしくみか、脳の処理の側にあるのだろう、と考えている。

鼻を鍛えれば何とかなる、という話ではないらしい。

訓練したパネルも、プロの調香師も、混合から聞き分けられるのは3〜4種類までだった。
訓練したパネルも、プロの調香師も、混合から聞き分けられるのは3〜4種類までだった。

30種類を混ぜると、全部が同じ匂いになる

では、もっと混ぜたらどうなるか。

2012年、イスラエルのワイツマン科学研究所のWeissらが、極端な実験をした。

匂いの分子を86種類用意し、どれも同じくらいの強さに薄める。
それを何種類も混ぜて、ペアで嗅ぎ比べてもらう。

すると、成分を1つも共有していない2つの混合が、混ぜる数を増やすほど似てきた。
約30種類で、たいていの混合が同じような匂いになった。

研究者たちは、これを「嗅覚の白」と呼んだ。
絵の具を全部混ぜると灰色になり、光を全部混ぜると白になる。
匂いにも、同じことが起きる。

成分が1つも重ならない2つの混合でも、約30種類ずつ混ぜると同じ匂いに感じられた。
成分が1つも重ならない2つの混合でも、約30種類ずつ混ぜると同じ匂いに感じられた。

シーシャのフレーバーは、1種類の中にもともと何十もの分子が入っている。
そこへ5種類、6種類と重ねていくと、ミックスは「おいしい何か」には近づいても、どんどん名前を失っていく。

多いほど複雑になる、とは限らない。
多いほど、のっぺりすることもある。

ちなみに、海外のミックスの作法では「味は3種類まで」とよく言われる。
経験則だと思っていたけれど、鼻の側から見ても、ちゃんと筋が通っていた。

家で試せる、3つのこと

1. 主役を1つ決めて、3種類で組む。
海外の作法でよく言われるのは、ベース6・アクセント3・引き立て役1の割合。
数字は目安だけど、「主役がどれか」を自分で言えるミックスは、吸っても輪郭が残る。

2. 4種類目を入れたくなったら、1つ抜いてみる。
抜いても味が変わらなければ、その1種類は鼻に届いていなかった。
変わったなら、残す価値がある。
どちらに転んでも、自分の鼻の解像度が分かる。

3. 当てっこは、単品を先に嗅いでから。
実験でも、まず一つひとつの匂いを覚えてから混合に挑んでいる。
ミステリーシーシャで遊ぶなら、候補の缶を先に開けて嗅いでおく。
それでも3〜4種類が限界。外れても、それは鼻のせいではない。

白いテーブルの上に、フタを開けたフレーバー缶が3つだけ、間隔をあけて並んでいる

前に、フレーバーの名前は百通りでも香りの家族は3つ、という話を書いた。
鼻が聞き分けられる数も、だいたい同じくらいだった。

5種類目を入れるのは、ぜいたくではない。
たぶん、白に一歩近づくことだ。

参考

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