海外のメーカーにとって、東京はイチゴと抹茶の匂い。

海外のメーカーにとって、東京はイチゴと抹茶の匂い。

文:オリバ(deeep 研究係)


この10月、ロシアのHooliganが新しいフレーバーを出した。
名前は「ТОКИО」。トーキョー。

東京の匂いって、なんだろう。
ラーメン? 雨のアスファルト? 満員電車?

答えは、イチゴと抹茶だった。

住んでいる側からすると、ちょっと笑ってしまう。
でも調べていくと、これがなかなか筋のいい組み合わせだった。

白い器に盛ったイチゴと、点てたばかりの抹茶の茶碗が並んだ食卓

抹茶は、日本の茶の1割もない

まず、抹茶の立ち位置から。

抹茶の原料は「てん茶」という、揉まずに乾かした茶葉だ。
2025年産の荒茶で見ると、てん茶は全国で6,278トン。
茶全体の73,372トンのうち、1割にも満たない。
いちばん多いのは、ふだん急須で淹れるせん茶(35,332トン)。

日本の中では少数派。
それでも海の向こうのメーカーは、東京をこの匂いで描いた。

日本で作られる荒茶のうち、抹茶の原料のてん茶は1割に満たない。
日本で作られる荒茶のうち、抹茶の原料のてん茶は1割に満たない。

抹茶の匂いは、海苔とゆでコーン

では、抹茶はどんな分子で匂っているのか。

農研機構の水上さんは2019年、抹茶の香りの要になる分子を探した。
鼻で一つずつ嗅ぎ分けて残ったのは、5つ。

  • ジメチルスルフィド(DMS):海苔、ゆでコーン
  • メタンチオール:硫黄っぽい匂い
  • 2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール:麦芽のような、香ばしい甘さ

DMSは、抹茶1kgあたり2.92〜17.5mg。
前に書いた「トウモロコシと緑茶は同じ匂い」の、あの分子だ。

面白いのは、抹茶の香りを集めた液を45℃で濃縮したら、抹茶らしさが消えてしまったこと。
要になる香りは、それくらい軽くて、すぐ逃げる。

ちなみに、茶畑にかけた覆いを外して日に当てる時間が長くなると、玉露の代表的な香りであるDMSが減った、という福岡県の報告もある。
日陰で育てるお茶の「海苔っぽさ」は、日陰の産物なのかもしれない。

イチゴの匂いは、カラメルと青い葉

次はイチゴ。

1997年、ミュンヘン工科大学のSchieberleとHofmannは、搾りたてのイチゴ果汁の香りを分子で組み直した。
効いていたのは、6つ。

  • フラネオール:カラメルのような甘さ
  • 酪酸メチル、酪酸エチル、2-メチルプロパン酸メチル:果実っぽさ
  • 2,3-ブタンジオン:バター
  • (Z)-3-ヘキセナール:刈った草、青い葉

12種類を混ぜた「人工のイチゴ果汁」は、本物にかなり近い匂いになった。
そこからフラネオール、(Z)-3-ヘキセナール、酪酸メチルのどれかを抜くと、はっきり違う匂いになった。

フラネオールは、もともと1965年にパイナップルから見つかった分子だ。
イチゴの甘い匂いの芯には、焦がした砂糖に近いものがいる。

イチゴの中に、お茶の葉がいる

ここで、おっと思った。

イチゴの「青い葉」担当、(Z)-3-ヘキセナール。
この分子は、お茶の生葉の中にもいる。
1975年、山口大学のチームが茶の生葉から取り出して、正体を確かめている。
青葉アルデヒドとも呼ばれる、葉っぱの傷口から立つ匂いの仲間だ。

つまり、イチゴの匂いの一部は、茶畑と同じ匂い。
イチゴは、ほんの少しだけお茶を着ている。

そして抹茶の側にも、麦芽のような甘い香ばしさがある。
イチゴのカラメルと、抹茶の麦芽。
甘いほうでも、青いほうでも、二つは手をつなげる。

海外のメーカーが東京をこの二つで描いたのは、偶然かもしれない。
でも、分子で見ると、けんかしにくい二人を選んでいる。

イチゴと抹茶は、青い葉の匂いと甘い香ばしさの二か所でつながっている。
イチゴと抹茶は、青い葉の匂いと甘い香ばしさの二か所でつながっている。

ボウルの中では、抹茶が先に走る

ここからは、オリバの推測が入る。

DMSの沸点は約37℃。
フラネオールは216℃。
同じボウルに詰めても、気体になりやすさがまるで違う。

だから「Tokyo」のような組み合わせは、たぶん序盤は抹茶の海苔っぽさが前に出て、後半はイチゴの甘さが残る。
45℃の濃縮で消えてしまう抹茶の香りが、数百℃のヘッドで長生きするとは考えにくい。

一つの味の中で、東京が「抹茶の街」から「イチゴの街」に変わっていく。
そう思って吸うと、時間の流れまで味になる。

抹茶の要のDMSは約37℃、イチゴのフラネオールは216℃で、抹茶の香りが先に抜けていくはず。
抹茶の要のDMSは約37℃、イチゴのフラネオールは216℃で、抹茶の香りが先に抜けていくはず。

家で試せる、3つのこと

1. イチゴのヘタを嗅ぐ。
実ではなく、ヘタと、ヘタの近くの白い部分。
甘さより先に、青い葉っぽさが来るはず。それが、お茶の葉と同じ分子だ。

2. 抹茶を、ぬるめと熱めで嗅ぎ比べる。
同じ量の抹茶を、40℃くらいと80℃くらいのお湯で溶く。
熱いほうは最初にふわっと海苔が立って、すぐ落ち着く。軽い香りの逃げ足が分かる。

3. ミックスなら、抹茶を少し多めに。
抹茶系は序盤で引いていく、という読みが正しければ、最初の比率は抹茶寄りでいい。
抹茶6、イチゴ4くらいから始めて、後半の甘さがちょうどよくなるところを探す。

乾いた抹茶の粉と、薄く切ったイチゴを小皿に分けて並べたところ

東京に住んでいても、東京の匂いはうまく言えない。
でも外から見ると、それはカラメルと、青い葉と、海苔だった。

イチゴの中には、最初から少しだけお茶がいた。

参考

  • Hooligan「Monster」「Tokyo」の発表(クラウドシーシャ メディア、2026年10月)— media.cloud-shisha.com
  • 全国茶生産団体連合会調査(2025年産の荒茶生産量)、愛知県資料より — pref.aichi.jp
  • Mizukami, Y. (2019) *Analysis of key low-boiling-point odorants in matcha by solid-phase microextraction*, 茶業研究報告 128:23–29 — doi:10.5979/cha.2019.128_23
  • Sakaida, T. et al. (2010) *Influence of the exposure time after removing of covering materials over shading tea field on the quality of gyokuro*, 茶業研究報告 109:13–21 — AGRIS
  • Schieberle, P. & Hofmann, T. (1997) *Evaluation of the Character Impact Odorants in Fresh Strawberry Juice by Quantitative Measurements and Sensory Studies on Model Mixtures*, Journal of Agricultural and Food Chemistry 45(1):227–232 — doi:10.1021/jf960366o
  • Rodin, J. O. et al. (1965) *Volatile flavor and aroma components of pineapple. I. Isolation and tentative identification of 2,5-dimethyl-4-hydroxy-3(2H)-furanone*, Journal of Food Science 30:280–285
  • Kajiwara, T., Harada, T. & Hatanaka, A. (1975) *Isolation of Z-3-Hexenal in Tea Leaves, Thea sinensis, and Synthesis Thereof*, Agricultural and Biological Chemistry 39(1):243–247 — doi:10.1271/bbb1961.39.243
  • PubChem, Furaneol(沸点216℃)— pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/19309 / Dimethyl sulfide — pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/1068
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