日本の会社が、エジプト最古のシーシャを持っている。

日本の会社が、エジプト最古のシーシャを持っている。

文:オリバ(deeep 研究係)


シーシャ屋の棚で、よく見かける缶。
「ナハラ」と読む、Nakhla。

あれを作っている会社の親会社は、日本にある。
JT だ。

棚に並ぶシーシャ用の缶

エジプトのナイル・デルタで生まれたシーシャが、東京の会社の決算書に載っている。
シーシャはもう、路地裏の嗜好品ではない。地図の上で、お金が動いている。

図:エジプトのデルタで生まれた Nakhla は東京の JT へ、UAE のアジュマーンで生まれた Al Fakher はニューヨークのナスダックへつながる
図:エジプトのデルタで生まれた Nakhla は東京の JT へ、UAE のアジュマーンで生まれた Al Fakher はニューヨークのナスダックへつながる

1913年、デルタの町から

Nakhla は1913年、エジプトのシビーン・エル・コームで生まれたとされる。
現存するシーシャ用フレーバーのブランドとしては、最古級に数えられる。

2012年11月、JT はこの会社の買収を発表した。
日経によると、買収額は約200億円。
当時の Nakhla は、年間の販売量が約2万4,000トン(紙巻き換算で約240億本)、税抜き売上高は約88億円。85か国に輸出していた。
エジプトの水たばこ市場では約7割のシェアを持つとされた。

手続きが完了したのは2013年3月。
JT にとっては、初めての水たばこ事業であり、初めてのエジプト進出でもあった。

日本の会社が、エジプトで最初に買ったのが、シーシャだったわけだ。

1999年、湾岸から

もう一方の巨人は、ずっと新しい。

Al Fakher は1999年、UAE のアジュマーンで立ち上がった。
親会社はヨルダンのアンマン証券取引所に上場していたが、2020年、投資会社 Kingsway Capital が非公開化を決める。評価額は負債込みで14億ドル超。

その後、会社は AIR(Advanced Inhalation Rituals)と名前を変えた。
2025年11月、米国の SPAC(特別買収目的会社)Cantor Equity Partners III との統合を発表。想定された企業価値は約17.5億ドル。
統合は2026年5月に完了し、AIR Global として米ナスダックで取引が始まった。

AIR は自社の発表で、米国市場のシェアを60%超としている(2024年時点)。
傘下には Al Fakher のほか、炭を使わない電気シーシャの OOKA や、北米向けの卸売サイトも並ぶ。

1世紀近く年の離れた2つのブランドが、片や日本の上場企業の中に、片やナスダックに。
同じ「シーシャ」でも、ぶら下がっている資本の地図はまるで違う。

図:1913年生まれの Nakhla と1999年生まれの Al Fakher が、それぞれ JT とナスダックにたどり着くまでの年表
図:1913年生まれの Nakhla と1999年生まれの Al Fakher が、それぞれ JT とナスダックにたどり着くまでの年表

世界のシェアは、測るのが難しい

では、世界ではどちらが大きいのか。

たばこ産業を監視するバース大学の TobaccoTactics は、Euromonitor のデータとして、2022年のシェアを次のように紹介している。

  • JTI(Nakhla):約13%
  • Al Fakher:約12%
  • Eastern 系ブランド(Moassel など):約8%

ただし、これはパイプたばこ全体の数字だ。
Euromonitor は水たばこを単独で集計しておらず、パイプたばこの中に含めている。つまり、純粋な「シーシャのシェア」とは少しずれる。
Al Fakher 側は「次の4社を合わせたより大きい」と自称しているが、これも自社の主張だ。

数字は、どの箱で数えたかで顔を変える。

図:2022年のシェアは JTI 約13%、Al Fakher 約12%、Eastern 系 約8%だが、これはパイプたばこ全体の数字
図:2022年のシェアは JTI 約13%、Al Fakher 約12%、Eastern 系 約8%だが、これはパイプたばこ全体の数字

地図を知ると、見えるもの3つ

1. 缶の裏を見る。
製造者、輸入者、販売者。同じ棚に並ぶ缶でも、背後の資本はバラバラだ。ブランドの物語と、会社の物語は別にある。

図:缶の表にあるのはブランドの物語、缶の裏をたどると資本の物語が見える
図:缶の表にあるのはブランドの物語、缶の裏をたどると資本の物語が見える

2. 研究の「お財布」を見る。
シーシャの論文には、メーカーが資金を出したものもある。JT グループや、OOKA の関連会社が関わった研究も存在する。結果が間違っているとは限らない。でも、誰が払ったかは知っておいていい。

3. 「伝統」と「最新」を分けて味わう。
100年を超える老舗も、25年ほどの新興も、いまは同じくらい大きな会社の一部だ。缶を開けるとき、その距離を少し思い出すと、味の見え方が変わるかもしれない。


デルタの町の小さな葉が、東京とニューヨークにつながっている。
煙は軽い。でも、その地図は重い。

乾いたシーシャの葉のひとつまみを、白い余白の中央に

参考

  • 日本経済新聞「JT、エジプトの水たばこ会社を買収」2012年11月 — nikkei.com
  • 流通ニュース「JT/エジプト水たばこ大手の買収完了」— ryutsuu.biz
  • Moodie Davitt Report "Japan Tobacco to acquire leading Egyptian shisha manufacturer Nakhla" — moodiedavittreport.com
  • Latham & Watkins "Latham Advises on Financing for Kingsway Capital's Take Private of Al Fakher" 2020年11月 — lw.com
  • Business Wire(AIR 自社発表)SPAC 統合の発表 2025年11月7日 — businesswire.com
  • Business Wire(AIR 自社発表)統合完了 2026年5月 — businesswire.com
  • Business Wire(AIR 自社発表)"AIR Global to Begin Trading on Nasdaq" 2026年5月18日 — businesswire.com
  • TobaccoTactics(University of Bath)"Waterpipe" — tobaccotactics.org

※本記事は企業・市場の事実関係の紹介であり、特定銘柄への投資を勧めるものではありません。

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