ラベルを貼ったら、まずくなった。
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文:オリバ(deeep 研究係)
シーシャのホースに、ラベルを1枚貼る。
葉も、炭も、水も、何も変えない。
それだけで、おいしさの点数が下がった。
2025年、米オハイオ州立大のBrinkmanらが、シーシャを常用する92人で試した実験だ。
1週間おきに3回、同じ人が、自分で選んだ同じフレーバーを吸う。
半分の人は、2回目から吸い口のすぐ下に健康警告のラベルを貼った状態で吸った。
結果。
一口の量、回数、吸っている時間(約36〜39分)は、ラベルがあってもなくても、はっきりした差が出なかった。
体は、いつもどおり吸っていた。
なのに、ラベルの組では「味がいい」の評価が、1回目から3回目で18%下がった。

正直に言うと、この実験だけでは足りない
ここで一度、ブレーキを踏む。
この研究では、比べるために何も描いていない白紙のラベルを貼った組もあった。
その組も、2回目で「味がいい」は57.7点から49.8点に下がっている。
2つの組の差は、統計的にははっきりしなかった。
つまり「警告のせいでまずくなった」とは、この論文だけでは言い切れない。
実験室で、同じ葉を、毎週吸う。それ自体で飽きてくる、ということもありそうだ。
でも、引っかかる。
吸い方(体)は変わらないのに、味の評価(頭)だけは動いた。
この「体と頭のずれ」は、別の分野ではもう何十年も前から調べられている。
主役は、ワインとアイスクリームだ。
白ワインを、赤ワインの言葉で語った
2001年、フランスのMorrotらは、白ワインに匂いのない赤い色素を入れた。
香りは1分子も変わっていない。色だけが赤い。
それを54人のテイスターに嗅がせると、香りは赤ワインとして表現された。
もともと白ワインの香りを語るときの、淡い色の果物や花の言葉ではなく、赤や黒っぽいものの言葉で。
鼻は正しく匂いを受け取っている。
でも、それを言葉にする段階で、目の情報が勝ってしまう。著者らは、そう考えている。
名前は、口に入る前に味を決めている
2008年、英サセックス大のYeomansらと、シェフのヘストン・ブルメンタールが、スモークサーモンのアイスクリームを作った。
同じものを、ある人には「アイスクリーム」、ある人には「冷たいセイボリー・ムース」と呼んで出す。
「アイスクリーム」と呼ばれた人は、強く嫌った。しょっぱさも強く感じた。
「ムース」と呼ばれた人は、受け入れた。
アイスと聞いた瞬間、脳は甘いフルーツ味を待ち構える。
そこに魚の塩気が来る。期待とのずれが、まずさになる。
もうひとつ。2006年のLeeらは、ビールにバルサミコ酢を数滴入れて、パブの客に飲ませた。
何も知らずに飲んだ人と、飲んだ後で酢入りだと知った人は、評価がほぼ変わらなかった。
評価が下がったのは、飲む前に知らされた人だけだった。
情報が効くのは、口に入る前。
ラベルは、味が始まる前に、味の枠を決めてしまう。
家で試せる、3つのこと
1. 一度、目隠しで吸ってみる。
友だちにパッケージを見せずに詰めてもらう。何味か当てるのは、思ったより難しいはずだ。
当たらなかったら、それはあなたの鼻が悪いのではなく、いつも目が手伝っていた証拠。
2. 名前は、吸った後に言う。
人に出すとき、先に「これ、ちょっと変わった味なんだけど」と言わない。
感想を聞いてから、名前を明かす。Leeらの実験どおりなら、そのほうが味がまっすぐ届く。
3. ボトルの光の色を変えてみる。
同じフレーバーで、ボトルを照らす光を白から赤や青に変える。
味の言葉が変わるかどうか、メモしてみてほしい。ワインの実験の、家庭版だ。

舌と鼻は、正直だ。
でも、味の最終判断を下しているのは、たぶん目と耳と、言葉のほう。
ラベル1枚で、煙の中身は何も変わらない。
変わるのは、それを受け取るあなたのほうだ。
参考
- Brinkman, M. C. et al. (2025) *Effect of graphic warning label on acute changes in waterpipe tobacco smoking behavior, biomarkers of exposure and harm, and subjective effects in a randomized trial*, Addictive Behaviors 172:108520(米NIH/NCI・FDA資金)— PMC13266813
- Morrot, G., Brochet, F. & Dubourdieu, D. (2001) *The color of odors*, Brain and Language 79(2):309–320 — doi:10.1006/brln.2001.2493
- Yeomans, M. R., Chambers, L., Blumenthal, H. & Blake, A. (2008) *The role of expectancy in sensory and hedonic evaluation: The case of smoked salmon ice-cream*, Food Quality and Preference 19:565–573 — doi:10.1016/j.foodqual.2008.02.009
- Lee, L., Frederick, S. & Ariely, D. (2006) *Try it, you'll like it: The influence of expectation, consumption, and revelation on preferences for beer*, Psychological Science 17:1054–1058 — doi:10.1111/j.1467-9280.2006.01829.x